INTERVIEW
1972年1月21日、静岡県三島生まれ。生まれ育った三島の高校を卒業し、塗装の現場で働き始めて32年。大好きな地元の町を塗り続けてきた。社会に貢献する職人でありたいと、フリースクールや養護施設の生徒などハンデを背負った若者たちを積極的に会社に受け入れ、働く喜びを伝えている。トレードマークは、親しみを感じるオレンジ色のオーバーオール。地域の人達なら一目見て、「うみのワークスさんね」とわかってしまう。〈株式会社うみのワークス（うみの塗装）〉www.uminotoso.com
Chapter 1
ぼくが生まれ育った大好きな三島は、古くは箱根の山から下ってきた宿場町として栄えました。水がきれいで、空気がきれいで、眼下に駿河湾が広がっています。東京駅から新幹線で1時間くらいですね。
暮らしている人達がおおらかで暖かく、気候も穏やかで暖かいです。夏もそれほど暑くないし、冬もそれほど寒くない。働く環境としては、恵まれているなあと感じます。
高校を出てすぐに現場で働き始めました。両親共、塗装の職人だったのですが、最初は外へ出ました。取引のあった塗料屋さんの紹介です。18歳ですが、それまでも父の現場で一通りのことはやっていたので、特に苦労をしたという記憶はありません。
小学校1年生のときが、じつはぼくの本当の“現場デビュー”です。自分の家を塗るときに刷毛を持たせてもらって、家の中の壁を楽しく塗りました。
でもそのときは、ペンキを入れた缶をひっくり返して、全身にかぶって大変なことに（笑）。そのときに怒られなかったのも、子供心に、この仕事が好きになった理由かもしれません。少年時代のたのしいペンキ屋ならではの思い出です。
Chapter 2
「変わったユニフォームのペンキ屋さんね」と、よくいろんな方に言われます。青いシャツに鮮やかなオレンジ色のオーバーオールで、確かに珍しいですよね。何年くらい前だろう、異業種の人と交わる勉強会に出たときに、「塗装屋さんて、服装がこわくて近寄りづらいよね」と、指摘されたのがきっかけです。
それを聞いて、ぼくはびっくりしました。それまで自分たちの服装が怖いなんて、一度も思ったことがなかったからです。むしろ現場で働く職人の姿を見て、「ペンキが飛んだ塗装職人の服装って、シブくて格好いいよなあ」と、心の中で思っていたくらいです。
「どんな服装なら怖く感じないと思います？」 聞いてみると、塗装業をまったく知らない参加者の皆さんが、あーでもないこーでもないとアイデアを出す。そして、「オーバーオールなんていいんじゃない？」ということになり、本当かなあ？ と半信半疑で取り入れたのが、このユニフォームです。
最初の頃は、自分でも恥ずかしくて（笑）。でも、結果は大成功でした。いろいろな人が声をかけてくれるし、お客さんとの距離が近くなり、受注にもつながったこともあります。
カラーは僕が決めました。ホームページを作るにあたって、〈うみのワークス〉という会社の親しみやすさを伝えるには、この配色かなと。静岡はミカンが有名ですが、そのイメージもありますね。
Chapter 3
〈うみのワークス〉は、丁寧さでは負けません。下地処理をキッチリまじめにやることで10年後――「やっぱりあそこはいいよね！」とわかってもらえる仕事をしています。塗装は、見えない部分に職人たちの心が映る仕事だと思うんですよね。だからこそ、真っすぐにやっています。
塗装職人としてはもちろん、一人の大人としても信頼されることが何より大切だと思います。ですから、うちは皆でボランティアに参加をしたり、消防団に入ったり、地域の活動もしています。若い職人達に、社会に信頼される人になって欲しいんです。
うちでは、不登校でフリースクールに通っていた生徒や、知的障害を持った若者、親から虐待を受けて養護施設で育った子供など何らかのハンデを背負った若者たちを受け入れています。ぼく自身、吃音があったので人前で話さなくてすむという理由でこの仕事を選んだのが正直なところです。でも、一生懸命仕事をしているとまわりが認めてくれ、信頼してくれ、社会に役立っているという実感が持てる。
だから彼らにも、そういう大人になってほしくて、自分に自信を持てる人になってほしくて日々彼らと接しています。お客さまから「うみのさんちの子たち、頑張っているね！」と声を掛けられたときが何よりも嬉しいですね。
身体を動かして汗をかいて、風を感じて、お客さまに「ありがとう」と声をかけてもらって…。そうした現場での経験を通じて、いったい何を感じるか。それは彼らにしかわかりませんが、あえて言うなら、塗装の仕事には、目に見える達成感がありますからね。あるいは何かを感じてくれるかな。
例えば今日の現場にも…古橋幹大は、もともと不登校で、16歳のときにバイトでうちに来て、今は10年くらいかな。希代和也は25歳。和也はフリースクールからうちに来たんですが、今では職長として現場を仕切っていますよ。
彼らが来たときは寮というか、ね。倉庫の一角に寝具を入れて雑魚寝をして、ぼくの母が作ったご飯を食べて、幹大と和也はうちで暮らしたんです。そうした家族的な関係性の中で仕事をできるのも若い職人たちの成長に役立っているのかなと思います。
彼らにはいろんなものを見て、触れて、感じてほしくて、小さな会社だけど、社員旅行は海外にも出かけます。バリ、グアム、モロッコにも行きました。コロナが落ち着いたら、また皆で出かけたいですね。
掲載日：2022年10月21日
ハンデを背負った若者たちが、塗装の仕事で立派な大人へと育っていく。社会に貢献できる人間を育てたい。