Yamaoka Ai (age44)
大石産業株式会社勤務 1975年8月17日、神奈川県生まれ。19歳で大石産業㈱の現場を手伝い、そのまま塗装の道へ入る。職人歴25年。アルコールは何でもOK
INTERVIEW
大石産業株式会社勤務 1975年8月17日、神奈川県生まれ。19歳で大石産業㈱の現場を手伝い、そのまま塗装の道へ入る。職人歴25年。アルコールは何でもOK
Chapter 1
山岡愛。職人歴25年、44歳。ずっとこの大石産業㈱で働いています。職人になったきっかけは、後に結婚することになる当時の彼が、塗装職人だったから。当時私は19歳、彼は21歳。それまでは、私は飲食の仕事をしていました。
現場はいつも忙しそうで、人手が足りなさそうでした。それである日彼から――「仕事を手伝ってよ」と誘われたんですよね。驚きました。それまで私は、現場で働いたことなんかないし、ペンキを塗ったこともないし、できるとも思わなかったですから。でも、若いってすごいですね。「忙しくて大変なんだろうから、3日か4日…あるいは1週間くらいなら手伝ってみようかな」と、彼に連れられるまま現会長に挨拶をして、お手伝いをしてみよう、と現場のみんなさんの中に入っていきました。
初めて入った塗装屋さんの現場はもう、衝撃の世界!みんなすごく年上で、しかも職人ですからみんなイケイケです。からかわれたり、冗談も怖い感じがして。19歳の私は縮こまっていました。しかも当時は、いまとちがって女性の塗装職人なんて、どこの現場にもいない時代でした。いまから考えると、先輩達は気を遣ってくれたんでしょうね。
塗装現場の内側へ初めて入ると、職人達がすごく格好良く光って見えました。養生にしろ、刷毛にしろ、ローラーにしろ、ケレンにしろ、働いている職人達の動きは寸分の無駄もない。素人とは全くちがう。「す、すごい!」と圧倒されました。
Chapter 2
ほんの3日間のお手伝い――という軽い気持ちで、初日にやったのはケレン作業。清掃。ペーパーあて。それから養生のお手伝いなど・・・。言われるまま必死でやっているうちに、あっという間に一日が過ぎたのを覚えています。
なぜか楽しかったんですよね。それで3日間のつもりが4日間になり、翌日も、さらに翌日も……と1週間が過ぎて。じゃあ、この現場が終わるまでやってみよう。終わると次の現場も出てみようかな、と。それで結局、24年後のいまも現場にいます。まさかずーっとやることになるとは、まったく想像していませんでした。
作業着は、最初から自分の物を買って揃えました。するとやっぱりそこは、若い女の子じゃないですか。ピンクとか薄紫のような派手で明るい色が着たくなる。それで――ある時、現会長についに怒られちゃったんですよね。寒い冬で、紫色のテカテカのジャンパーを着て現場へ入ったら、「なんだ、そりゃ。おめえ!みっともねえなあ」と。現場に響き渡る大きな声で。恥ずかしかったですよ。みんなが一斉に私をジロリとみるんですから
それを機会に反省して、現場での衣装は白、黒、シルバーなどのシンプルな色使いを心がけています。いまは職長として一人で現場に入ることもある。なかには、女性の職人だということで心配をされる元請けの現場監督や施主さんもいらっしゃいます。本当は男性も女性も関係ないのだけど、そういう気持ちへの配慮も必要ですよね。
Chapter 3
彼と結婚したのは24歳。結婚は10年間続きました。彼の方が2歳年上で、職人としては先輩なんですが、だんだん私は私で、自分の仕事のやり方・進め方というのができてきます。掃除の仕方一つ、養生の仕方一つ。一つ一つは小さなことなんですが、それが溜まってくると現場で言い合いになったりする。
やり方の違いは、職人なら誰にでもあります。夫婦でも夫婦じゃなくてもある。いまでも彼は、同じこの大石産業㈱で働いてますよ。同じ現場に行くこともあります。尊敬している部分もあるし、お互いサッパリしているんでそこは気になりません。
持っている資格は“一級塗装技能士”“有機溶剤作業主任者”“職長・安全衛生責任者”の三つです。資格を取るのは目的ではないですが、元請け業者や施主さんに安心してもらうためにも、とくに女性の職人は色々な資格を取得した方がいいと思っています。
Chapter 4
いまでは女性の塗装職人も珍しくない。でも、やっぱり女性ならではの大変さというのはあります。真夏の暑い日に汗をかいて、男性ならその場でパッと脱いで着替ができるけど、女性にはできない。毎日のことなので意外と苦労します。仮設のトイレもそうですね。まわりに男性の人達がいると恥ずかしい…とか。
飲み会には喜んで出ますよ。そこは職人同士、男女の差はなく楽しく話して飲みます。焼酎、ビール、日本酒。お酒は好きです。毎日の晩酌はビール一本と焼酎2~3杯。
塗装の仕事についてよかったなと思うのは、今では男女の性別関係なく働ける職場といういこと。腕力がなくても一人前になれる。センスと技術で認められる。60歳を過ぎても70歳を過ぎても働ける。うちの会社に以前、戦争時代からペンキを塗っていた職人がいました。ものすごく仕事ができるんです。ものすごく速い。見ていると、例えば――刷毛について余分なネタを落とすのに、トンッ・トンッと一・二回叩いてもう塗りに入っている。刷毛のペンキの量を調整するのに、トン・トン・トン・トン・トンと5回も6回も叩いてから塗るのとでは、その繰り返しが一日中ですから、大差になって表れるんですよね。
さすが戦時中からの職人は凄いと言葉が出なかった。いつ空襲警報が鳴るかもわからない緊張感の中で身に着けた腕というのは、私たちが想像がつかないものがあります。そういう技術を、私も身に着けたいです。
掲載日:2019/08/30
彼に誘われて24年。いまでは一人前の女性塗装職人です