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INTERVIEW

職人図鑑 #40 坪井 邦夫(48歳)

「お前はよくやっているよ」──親父の最期の言葉を胸に、日々、仕事に取り組んでいます

坪井 邦夫

Tuboi Kunio (age48)

ツボイ塗工代表。1972年4月3日、東京都生まれ。東洋大学経営学部経営学科卒業後、父の故・秋義氏が経営するツボイ塗工に入り、職人の道を歩み始める。秋義氏が62歳で逝去後、ツボイ塗工を跡を継いで、現在に至る。趣味はドライブと仕事。休日も他社の塗装現場見学、塗料や塗装道具の研究にあてることが多いという

 

Chapter 1

3歳の頃から、ペンキ屋になりたいと言っていたそうです

 ものごころついた頃から、親父の跡を継いで、ペンキ屋になろうと思っていました。自分では記憶にないんですが、3歳の頃から、「お父さんといっしょに仕事をしたい」と言っていたそうです。ちょうど、父が独立して、ツボイ塗工を立ち上げた頃。現場に連れていってくれることも多く、親父の仕事を見ていて、塗装できれいになっていくのを見ていて、憧れたんだと思います。いま考えると、親父は幼い子供を連れていくことで、次の仕事を受けるための“営業”になるかもしれないと考えていたのかもしれません(笑)。

 以来、その気持ちは変わっていません。ですから、中学を卒業するとき、そのまま塗装職人になろうとも考えていたんです。

 ただ、担任が「高校くらいはでておいたほうがいい」とすすめられて高校に進み、高校を卒業するときにも「せっかくだから、大学へ進んだほうがいい」とアドバイスされて、大学を受験しました。ただ、浪人してまで大学へ進もうとは思っていなくて、もし落ちたら、職人になろうと決めていました。また、職人になるにせよ、経営のことを知っておいたほうがいいと思って、経営学部経営学科を受験。幸いにも合格することができたので、大学へ進学したんです。

 でも、中学時代から、親父の手伝いをしていたんです。見積書や塗料などの発注書もつくっていましたから、仕事の流れはわかっていました。

Chapter 1 3歳の頃から、ペンキ屋になりたいと言っていたそうです Chapter 1 3歳の頃から、ペンキ屋になりたいと言っていたそうです

Chapter 2

親父が末期がんに冒されて、一人立ちすることになりました

 大学を卒業した22歳から、本格的に職人の道を歩み始めました。それから14年、やっと一人前になって、二人で大きな仕事をこなし、やっと親父の片腕になれたかなあと思っていたんですが……2008年春、親父が膵臓がんで倒れてしまいました。膵臓がんは早期発見がむずかしく、難治性がんなんですが、親父もわかったときには進行が進んでいて、余命3か月と宣告されてしまったんです。

 それまで私は、塗装職人としての仕事だけをしていいればよかった。現場の下見をして、お客さんの要望を聞いて、見積もりをして、現場に入る。そして、職人として、いい仕事をしていこうとするだけでよかったんです。たとえば、営業は親父に任せていました。

 しかし、親父が倒れて、仕事ができなくなってしまい、ツボイ塗工としての仕事は全部、私がこなしていくしかなくなった。ですから、その頃、死にものぐるいで働きました。親父はどういうふうに営業していたのか?

 こんなことがあったら、親父はどう対応していたのか? さらに、自分なりにどのように仕事に取り組んでいけばいいのか? 目の前の仕事をこなしていくなかで、考えることが多かった。

 そうしているうちに、親父はどんどん衰弱していってしまった。でも、病院にお見舞いに行っても、親父とあまり言葉を交わさなかったんです。同じ職人として、話さなくても、お互い伝わるところがありましたし、残された時間、お袋や妹と話してもらいたいと思ったんです。それでも、あるとき、親父は私にこう言ってくれたんです。

「お前はよくやっているよ」

 こころに響きました。以前のような力がある口調ではなかった。現場でのきびしい口調ではなかった。やさしさに満ち溢れていて、それで逆に、寂寥というか、それまでに味わったことのない気持ちを感じました。

Chapter 2 親父が末期がんに冒されて、一人立ちすることになりました Chapter 2 親父が末期がんに冒されて、一人立ちすることになりました

Chapter 3

いい素材、いい工法、いいデザイン、いいコミュニケーションをモットーにしています

 ツボイ塗工は親父の代から、外壁塗装を専門にしています。耐久性と仕上がるに美しさを高めるために、4回塗りを基本としていることなどは変わりませんが、自分としては、親父以上に、いい素材、いい工法、いいデザイン、いいコミュニケーションを心がけるようにしています。

 そのために、TwitterFacebookInstagramブログなどでインターネットを最大限に活用するようにしています。SNSやブログはこちらかの情報発信になり、今年はTwitterだけで3件の外壁塗装を受注、Instagram、Faceboo、HPからの受注でほとんどの工事が決まっています。でも、それ以上に、塗装に関する最新情報を、SNSでつながったメーカーさんから入手することができるんです。たとえば、この現場はピアノ教室なんですが、玄関へのエントランスの外階段には、「ホタルコーク」という特殊なシーリング剤を使いました。蛍光剤が入っているので、暗くなると光るので、教室に通う子供たちが階段を上りやすいですし、楽しいだろうと考えて、お客様にご提案しました。

 この「ホタルコーク」の具体的な情報も、Twitter,Instagramで知ることができたんです。

 最近、力を入れているアートペイント、デザインペイントに関する最新情報もネットを通して、つかんでいます。塗装の世界でも、新しい素材、工法、デザインは日進月歩で進んでいますからね。こういう現場があったら、お客様にこんな提案ができるかも、と、ネットを見ながら、わくわくしています。

 この現場でも、エントランス脇にピアノの鍵盤を実寸サイズでデザインペイントしました。正面には鍵盤に駆け上るネコのステンシルも施しましたが、この作業は妻に任せたんです。この現場から妻に手伝ってもらっているんですが、阿吽の呼吸で作業が進みました。

Chapter 3 いい素材、いい工法、いいデザイン、いいコミュニケーションをモットーにしています

Chapter 4

お客様の笑顔、建物の笑顔、そして、亡き父の笑顔に、仕事の醍醐味を感じています

 この仕事は効率も大切ですが、お客様目線になることが、いちばん重要なことだと私は考えています。たとえば、マスキングなどの養生。きれいに仕上げるためには、ていねいに行うことはもちろんですが、何のために行っているのかお客様にもわかりやすい作業にしたほうがいいと思うんです。マスキング、養生はお客様にいい仕事を見せるための入り口になる気がするんです。

 剥がしやすいように貼っていくことなどは効率がいいかもしれませんが、お客様から見ると、効率いい作業は雑に見えるところがあるかもしれません。たとえば、窓に養生が貼りっぱなしは嫌だというときに換気できる養生をする、適時貼れるように段取りするなど、お客様の生活にできるだけ支障が出ないように、お客様に配慮した養生を心がけています。

 その過程を見ると、わかってくださるお客様が多いですからね。バカていねいなくらいにやっています(笑)。

 仕事の喜びは何より、施工後、お客様の笑顔を見せていただくことです。また、仕事が終わって、足場を撤去して、生まれ変わった現場の前に立っていると、建物の笑顔が私には見えてくるんです。そして、「よくやってくれた!」と語りかけてくれているような気がする。さらに……私のこころのなかには親父の笑顔が浮かび、最期の言葉が胸に響いてくるんです。

Chapter 4 お客様の笑顔、建物の笑顔、そして、亡き父の笑顔に、仕事の醍醐味を感じています
Chapter 4 ていねいでお客様にもわかりやすい養生を心がけています。この仕事はマスキングがすごく大切だと思うんです。なので、
※仕事現場では常にマスクを着用していますが、写真のためにマスクを外して、適切なソーシャル・ディスタンスを取って、撮影しています。

掲載日:2020/9/17

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