Kenichi Sugii (age37)
1980年３月23日、岡山市生まれ。鉄工所勤務を経て、19歳で塗装業の世界に入る。また、この仕事に就くと同時に結婚、高校２年生の長男、中学２年生の長女、小学５年生の次女と暮らす
INTERVIEW
職人図鑑 #003 杉井謙一(37歳)
Chapter 1
刷毛を握るまで丸５年 ——耐えた修業時代
「髪を切りに行く時間がないだけです」と本人は言うが、
アーティストっぽい外見。そして、見た目とおりに、
普通の外壁塗装だけでなく、壁画を描ける特殊塗装の技術を持つ。
壁画は通常の塗料だけは描けないし、塗装の劣化を防ぐための
コーティング作業などさまざまな高度な技術が必要だ
塗装の道に入る前は、鉄工所で機械の組み立ての仕事をしていたんです。塗装に興味を持つようになって、兄弟子になった人がつないでくれて、大池塗装に入社させてもらったんです。
職人としての自分をふり返ると、厳しい修業時代でした。会社に入って丸5年間、刷毛を触らせてもらえませんでしたから。毎日毎日掃除と下手間、養生。ローラーでは塗らせてもらえましたけど、やっぱり塗装の花形は刷毛ですからね。刷毛を持ちたい…！そう思いながら刷毛に触れず、毎日、現場に立ってました。途中、何度やめようと思ったかわからないくらい。
ちょうど結婚した頃だったので、家族のためにも、何としても手に職をつけようという強い思いがあったんですね。それだけに一所懸命でしたし、いま考えると、家族の存在がモチベーションになっていて、続けられたのかもしれない。正直、よく腐らなかったなとも思いますけど、それが今の自分につながっていると胸を張れます。
Chapter 2
塗装という仕事の おもしろみ
長かった下積み時代のおかげで、しっかりとした技術を身体で覚えることができたーーとも言えるし、そこに自分のプライドもあるんです。僕が塗装の世界に入った頃、先輩たちは何も教えてはくれませんでしたから、技を見て盗むしかなかったんです。
そういうふうな環境で育ったせいかもしれませんが、「本当の技術は教えることはむずかしい」と思っています。いまは刷毛をすぐに持たせるようになっていますけど、本当の職人技は“見て盗む”ところに大切な部分がある。これは本当ですよ。
塗装の仕事のおもしろみは、古くなって命を失ったような状態の建物や壁が、自分の仕事で生き返って輝いていくところですかね。もともとそういうことが好きなのもあって、手応えを感じるんです。
そういうふうな環境で育ったせいかもしれませんが、「本当の技術は教えることはむずかしい」と思っています。いまは刷毛をすぐに持たせるようになっていますけど、本当の職人技は“見て盗む”ところに大切な部分がある。これは本当ですよ。
塗装の仕事のおもしろみは、古くなって命を失ったような状態の建物や壁が、自分の仕事で生き返って輝いていくところですかね。もともとそういうことが好きなのもあって、手応えを感じるんです。
Chapter 3
一人前になって改めて 養生の大切さを実感
じつは、刷毛を握ることを許されて、それが嬉しくて養生が疎かになった時期があるんです。兄弟子に怒られましたね。そして、「塗装は養生に始まり養生に終わる」ことを実感しました。たとえば、マスキングテープの使い分け。僕は今、どの現場へでも少なくとも５種類のテープを持っていきます。
普通の現場なら「カブキ」。「風神」は「カブキ」よりも伸び縮みするのが特徴で、養生するところに凹凸があるときは「風神」を使う。また、「弁慶」は「カブキ」よりも強度があるので、厚めの素材をテーピングするときに使うんです。また、「カブキ」は切りやすい反面、剥がすときにも切れやすいから、養生後の作業を考えると「弁慶」のほうがいいときもあるんです。その辺り、コストと手間を考えながら、うまくやっていかなければならないんです。
塗装のプロならみんな知っていることだとは思いますけれど、僕らの修業時代は、そういうことを自分の経験からつかんでいった。けどね、養生は養生であり、目的にしたらいかんと思うんです。きれいに塗装をするという気持ち。そのための養生を大切にしたらええんです。
普通の現場なら「カブキ」。「風神」は「カブキ」よりも伸び縮みするのが特徴で、養生するところに凹凸があるときは「風神」を使う。また、「弁慶」は「カブキ」よりも強度があるので、厚めの素材をテーピングするときに使うんです。また、「カブキ」は切りやすい反面、剥がすときにも切れやすいから、養生後の作業を考えると「弁慶」のほうがいいときもあるんです。その辺り、コストと手間を考えながら、うまくやっていかなければならないんです。
塗装のプロならみんな知っていることだとは思いますけれど、僕らの修業時代は、そういうことを自分の経験からつかんでいった。けどね、養生は養生であり、目的にしたらいかんと思うんです。きれいに塗装をするという気持ち。そのための養生を大切にしたらええんです。
Chapter 4
心に残る倉敷チボリ公園の現場
いちばん印象に残っている現場は、この仕事を始めて間もない頃だったんですが、倉敷チボリ公園のチボリタワーを塗った時ですね。倉敷チボリ公園は2008年末に閉園になってしまったんですが、公園のシンボル的な建造物で、大勢が見あげて写真に撮る立派なタワーなんです。
細かい作業も多かったし、手間も大変で時間もかかったけど、完成してタワーを見上げた時の誇らしい気持ち。記憶に残っています。
最近、外壁の特殊塗装のために、ご指名をいただいて遠方の現場へ行くこともあるんです。やはり、そういう現場はやり甲斐を感じますよ。この仕事をやる以上、自分なりの仕事の爪痕を残したいーーそう思っています。
厳しい表情だが、どこからかやさしさも垣間見える。
「教えられた経験がないから、うまく教えてあげることが
できないところがあるんです。ただ、職人の仕事は根気よく頑
張るしかありません。もちろん、楽しみながらでないと、
できんけどね」（杉井さん）
掲載日：2018/05/07
職人として爪痕の残るような仕事をしていきたい！