Saeki Rima (age29)
株式会社ハットリ勤務。1990年1月10日生まれ。中学時代~通信制高校の間から父親の現場を手伝い、卒業後本格的に塗装職人の修行へ入る。職人歴14年で現場での信頼感は抜群だが、「趣味は幼い娘と一緒に昆虫の勉強をしています」と語る顔は優しいパパの表情だ
INTERVIEW
株式会社ハットリ勤務。1990年1月10日生まれ。中学時代~通信制高校の間から父親の現場を手伝い、卒業後本格的に塗装職人の修行へ入る。職人歴14年で現場での信頼感は抜群だが、「趣味は幼い娘と一緒に昆虫の勉強をしています」と語る顔は優しいパパの表情だ
Chapter 1
通信制の高校に通いながら職人の道へ入りました。中学時代から学校を休みがちで、塗装職人の親父が「現場に来てみるか」と声をかけてくれた。それがきっかけです。きっと、心配だったんでしょうね。だから現場には、中学時代から出ています。
もちろんその頃は、職人の心構えができていません。甘いもんです。何も考えずに現場に出ていました。ケレン、養生、掃除…、言われるままにやっていました。それでも、学校よりは面白かったな。
最初に親父に言われたのは、「見て学べよ」ということでした。親父はいま、病気になって現場を離れているんですが、親父と過ごした最初の頃の現場の時間を、いまは懐かしく思い出します。仕事を通して親父と話をする――親子の関係で見ると、この現場仕事の良い所かもしれませんね。面倒でもあるけれど。
Chapter 2
現場には従兄の兄ちゃんがいて、ほかにも年齢が近い先輩がいて、彼らにはいろいろ話を聞いて、教えてもらいました。いまでも自分はまだまだですが、強いて言うなら1級塗装技能技師を取った時に、「これで人並みの職人になれた」と感じました。
職人にゴールはないけれど、その時々の目標はやはり大切です。でもその目標は、「資格」ということではないです。
自分自身の技術や技能であったり、立場としての到達というか。1級技能技師も、親父にすれば取って当たり前で、誉めてもくれませんでしたけれど。当然です。一つひとつの現場が全部ちがうので、毎日学んでますね。
Chapter 3
今日の現場は大規模改修のマンションで、自分としては割と珍しい現場です。仕事の割合としては、普段はお店だったり新築だったり、内部塗装が多いです。
やっぱりマンションは、現場にいる職人の数も多いし活気がありますよね。ここは福岡空港が近いから、屋上に出るとすぐ頭上を飛行機が飛んだりして面白いです。
養生のテープも、内部と外部では全然ちがってきますよ。外部なら―― 例えばここではルパンをよく使ってますが、内部ならミラクルミントですね。
ミラクルミントは、粘着が弱くできてるんで、内部特有の繊細な場所に貼っても下地を傷めないし、貼り置きしても糊残りしない。匂いはしませんが、鮮やかなミント色のテープです。
ビルの8階9階の足場は、普段はあまり経験しない高所だけど、もちろん怖くはありません。30階40階の超高層ビルが現場だとしても、仮に100階だとしても、それは同じじゃないかなあ。現場では、そういう感覚がなくなります。
Chapter 4
実は自分は、これまで何度か親父に「もう明日から来んでいいで!」と、クビを突きつけられたことが5回はあるんです。最初の頃、朝起きるのがつらくて無断で休んだ時は当然。その他にも、現場は暑さ寒さや人間関係をふくめて、現場にはつらいことがありますから、若い時はどうしても心が折れる時がある。それでも、その都度「すみませんでした」と謝って、また仕事を続けることができたのは、一つひとつについて親父が「なぜいけないのか?」という理由を説明してくれたからだと思います。
突然その日に休んだら、どんな新米だって役割があって、それを他の誰かがかぶらなきゃならない…、現場で施工主さんの信頼を得るには、態度一つにだって気を配らなければならない…。後になれば自分自身でわかることが、若い時はわからないんですよね。
言われれば「確かにその通りだ!」とハッと気付いて、「どうもすみませんでした。また働かしてください」と謝って、同じ間違いをしないように気を付けることができる。親父は親方ですから、息子の不始末を周囲の職人に対して、きちんと示しをつけて見せる―― そういうことも考えていたんでしょう。
自分も現場で親方と呼ばれるようになって、いろんなことが見えてきます。親父には感謝しています。自分ももっともっと成長していきたいです。
掲載日:2019/10/15
内部塗装と外部塗装――使う道具も材料も全然ちがうけれど、職人としての心構えは一緒です