Furukawa Naohiko (age55)
1967年10月1日、北海道生まれ。大手出版社で編集者としてキャリアを積み上げてきたが、縁あって4年前の2018年に札幌キムテックに入社。50歳からのセカンドキャリアで塗装職人となった遅咲き北の大地を踏みしめる。バイクやギターなどの趣味人でもある。
INTERVIEW
1967年10月1日、北海道生まれ。大手出版社で編集者としてキャリアを積み上げてきたが、縁あって4年前の2018年に札幌キムテックに入社。50歳からのセカンドキャリアで塗装職人となった遅咲き北の大地を踏みしめる。バイクやギターなどの趣味人でもある。
Chapter 1
札幌キムテックに入社して塗装の現場に立つようになったのは4年前、51歳の時です。過去に塗装の経験は一切ありません。それまではずっと、大手出版社で情報誌やウェブメディアを作ってきました。いわゆるマスコミの仕事です。
北海道のいろいろな場所を訪ねて観光の見どころを紹介したり、美味しいお店を取材して記事を書いてました。北海道は楽しい話題に事欠きませんからね。そのほか北海道へキャンペーンやプロモーションでいらしたアーティストや俳優さんのインタビューもやっていました。
メディアで働いていたわたしが、刷毛すら持ったこともないまま塗装の世界へ入って4年続けてこれたのは、社長との出会いがあったからだと思います。木村社長(札幌キムテック社長)と知り合ったのは10年程前で、編集者をやっていた頃です。当時はお互い会社員でしたから仕事が終ったらいつも行くバーで待ち合わせて文字通り朝まで熱く夢を語り合ってました(笑)。気が合ったんでしょうね。
わたしにとってはかけがえのない親友の一人で、ある時報告があるって連絡が来て晩御飯を食べに行ったら、彼はお父さんの塗装会社で働くことになったって話してくれたんです。「そうかぁ、頑張ってね! 異業種への転職だね」ってもちろん祝いました。その何年か後にまさか自分が塗装職人になるとも思わずに。
わたしが50歳を過ぎてセカンドキャリアを考えていた頃に、「うちでアルバイトをしてみたら?」と声をかけてもらったのが、札幌キムテックで働くようになった直接のきっかけです。しかし、編集者から塗装職人という異次元の異業種転職。まったくの未経験の上に職人としては最後尾スタートとも言えるオーバー50。木村社長の誘いでなかったら、わたしも現場に立ってみようと思わなかったでしょうね。
「考えていても、やってみなければわからないよ」という言葉に「確かに!」と共感して挑戦することにしました。わたし自身、もともとの性格がチャレンジ好きというか、大型バイクでロシアを縦断したり、アコースティックギター1本で70年代のハードロックを弾いたりと冒険や新しいことが好きなんですよ。
Chapter 2
それなりに社会経験もある51歳が塗装の現場に立っていちばん意外だったこと。それは、“うちの会社……”はということかもしれませんが、“現場にはいかめしい頑固職人がいて、にらみを利かせている”という、それまでなんとなく想像していたイメージと現実が、まるで違ったことです。
うちには40~70代の12人の職人がいて、とにかくチームワークが良くそれぞれが役目を持って現場に入るので、居場所があって馴染みやすかったんですね。
新人のわたしに“出来ること/出来ないこと”を、先輩たちが歳の上下に関係なく的確に判断してくれて、必要とされる現場にわたしを当てはめてくれる。各現場間の横の連携が良いのでド素人でも安心して働ける。これには驚きました。
最初の頃にやっていたのは、職人の言葉で「手子(てこ)」という役目。「〇〇を取ってくれ」とか「〇〇を押さえておいてくれ」とか、そういう助手のような役目です。それに道具や材料の準備や掃除も大切な仕事です。
もちろんそこから先の、実際の職人技を覚えていく部分では、職人ならではの厳しさを感じることは当然ありました。
一生懸命に養生のテープを貼っても、「これじゃだめだから」と、パッと瞬時に全部はがされてしまう。う? なんでだ…。もちろん先輩たちは、「こんな感じでやってくださいね」と教えてはくれますが、やっぱり職人仕事の本質は、自分でなぜだ?と考えて、眼で見て身体で覚えていかないと身につかないんですね。長年培った編集者のキャリアを塗装の現場に活かせる場面は--まったくないと思います(笑)。
Chapter 3
転職にあたっては、もちろん妻にも相談しました。賛成はしてくれたのですが、「本当にできるんですか」と、心配もされました。高所から落ちるのではないか、機械の操作はできるのか、そういう部分は、いまでも心配なようです。「ちゃんとペンキは塗れてますか」と、思わず苦笑いしてしまうようなことを時々聞かれたりもします。
これまでには経験のない技を必要とする専門的な仕事ですから、つい心配してしまうのでしょうね。しかしこの仕事について初めて知りましたけど、高い所で作業をする時はその日の朝に足場の状況を、事細かに書かれたチェックシートに沿って一項目ごとに確認をしないと入場すらできない現場もあります。
その上でヘルメットはもちろん万一の転落に備えてフルハーネスを着用する。安全にはいくら気を配ってもしすぎることはないということですね。
始めは塗りやすいところから刷毛を持たせてもらって、一つずつ経験を積んで一人前の職人になる。今はまだ駆け出しで職人の端くれではありますが、思い通りに仕上がった時にはもちろんやりがいを感じることができるし、自分の手を経たものが次第に形になっていく過程を見られるのも面白いですね。
昔からの友人たちからは「51歳からの転職で職人によくなれたね」と言われますが、自分でもそう思うところがあります。でも、何歳からでも無理なことはない。自分の周りに年齢という囲いを作って新しいことにチャレンジしないって尻込みしていたら、囲いの外にある何かもっと大事なものにすら気付かない人生になっちゃうかもしれない。だから挑戦してみたいな、と思ったらやってみたらいい。51歳からの挑戦で職人になったわたしは、そう思います。きっとできますよ!
札幌キムテック前にて。左からサンビック株式会社の木村大樹氏、古川氏、札幌キムテックの木村秀治社長。
掲載日:2023年1月24日
51歳で編集者⇒塗装職人。畑違いの転職だったけれど、充実したセカンドキャリアを生きている実感がある。