Motoki Youji (age50)
カスタム・ペイント・プロ代表取締役社長 1968年4月22日、東京都生まれ。専門学校卒業後、父が経営する元木塗装へ入社。1999年に独立。現在、東京都塗装高等技術専門校講師。趣味はオートバイ、スノーボード
INTERVIEW
カスタム・ペイント・プロ代表取締役社長 1968年4月22日、東京都生まれ。専門学校卒業後、父が経営する元木塗装へ入社。1999年に独立。現在、東京都塗装高等技術専門校講師。趣味はオートバイ、スノーボード
Chapter 1
Chapter 2
今年、50歳になりました。「五十にして天命を知る」と言われますが、もうベテランの域になるんでしょうね。私としては、外装塗装の大きな現場よりも、現場は小さくても自由度が高い内装塗装が好きなんです。やり甲斐をより強く感じる。たとえば、有名な建築家が設計した店舗の内装を塗装したこともありますが、建築家の方と同じように、自分では「作品」だと思っているんです。エイジング塗装で経年劣化による独特の味わいを出してみたり、洞窟の雰囲気を塗装で演出してみたり……内装塗装はお客様の要望によって、ケースバイケースですので、どこまで自分の技量、こだわりを引き出せるかの勝負になるんですよ。
いずれにせよ、今後も、仕事への向上心は失いたくない。現状維持を考えていたら、先細るだけですから、新しい塗料、道具はできる限り試していきたいし、新しい技法にもチャレンジしていきたい。それに、新しい流れもおさえて、若い職人たちときちんと話せるポジションでいたいんです。
若い塗装職人たちの将来は……塗装業界で働き続ける人もいるし、転職していく人もいるでしょうけれど、その人たちの長い人生のなかで「こんなオヤジにこんなことを教わったな」と記憶に残るようなことをしていきたいんです。基礎ができていれば、それを膨らませていい仕事ができますし、さらに、キャリアを積んでいけば、どんな時代になっても、たいがいなことには対応できると思うんです。
Chapter 3
2年前から、東京都塗装高等技術専門校で塗装技能を教えています。よく言われることですが、教えることで、仕事の本質が見えてくることもあるので、自分のためにもなっていると感じています。また、塗料メーカーをはじめ塗装業界のさまざまなスペシャリストの方々も出講されていますから、最新、最前線の情報が自然と入ってくるので、すごく勉強になるんです。
それに、自分が向上心を持っていないと、他人に技能を教えることはできないと思う。時代遅れにならないように、5年先、10年先に本当に役に立つ技術を伝えていきたい。また、生徒たちと接していると、「初心忘るべからず」という思いを新たにすることができます。
生徒たちの職歴はさまざまです。塗装店に入社したてのほぼ未経験者から、十分なキャリア、技能を持っている人もいます。ただ、職場、親方によって、いろいろな仕事のやり方があります。それが、ここで標準的というか、基本の技術、技能、知識を全般的に身につけられるので、将来のためになると思います。現場は応用ですから、ベースがしっかりさせておくと、ケースバイケースでスムーズに対処することができますからね。
テーピングにしても基本があります。たとえば、真っ直ぐ貼るにもコツがありますからね。また、直線でない部分に貼りやすいテープもあります。そういう道具の知識も含めて、きちんとマスターしておけば、現場もうまく回っていきます。自己流でうまくできることも悪くはないんでしょうが、後進に教えることを考えると、きっちり基本をおさえておいたほうが絶対、いいんですよ。
Chapter 4
私自身、この学校で学んでいました。親父に基本をきちんと学んだほうがいいとアドバイスされて、通わせてもらったんです。振り返ると、塗装職人のキャリア形成として、とても役に立ったと思っています。
資格を取得したほうがいいと考えたのも、この学校に通ったからですからね。当時、塗装業界で建築塗装1級技能士などの資格はそれほど重視されていなかったんですが、いまはお客様への信頼の担保になっています。
あと、当時は女性の生徒はほとんどいなかったんですが、最近、すごく増えているんです。現場で働いている方ばかりではなくて、管理部門の仕事を担当され、業務内容を知るために通わられている方もいますが、男性だけの仕事ではなくなってきている。そういう時代の流れを実感しています。
ちなみに、学校は2年制なんですが、現在、卒業年度に建築塗装2級技能検定の受検資格が得られ、学科試験は免除されます。
また、 2 級に合格した 3 年後、1級技能検定の受検資格、卒業してから実務経験6年で職業訓練指導員の受講資格が得られます。
この学校の授業は週1回、午前と午後に50分の授業が4コマずつ、一日8コマあります。座学と実技ですが、実技が中心となります。私が担当している「建築物塗装法」も、座学と実技の両方があるんですが、ほとんどの生徒さんたちはとても熱心に授業を受けています。
ただ、みんな、最初からうまく仕上げようという気持ちが強すぎる気もしています。
自分自身がこの学校に通っている頃を思い出すと、そういう気持ちもわからないでもないんですが、なぜ学校に通っているということをわかってほしいんです。
最初はできなくて当たり前なんですから、気負わなくてもいいんですよ。できないことでへこむ必要なんてない。何ができないのかを明らかにしていって、技術を身につけていくことこそ、大切だと思います。
Chapter 5
今年度の担当「建築物塗装法」以外、他の講師の方々のアシスタントも務めています。1学年の定員は50人なんですが、実技科目は手取り足取りで教えてあげる必要があるので、講師3名がアシスタントになって指導していく体制になっているんです。
昨年は、特殊な塗装機器を扱う授業も担当しました。以前とは違って、さまざまな塗装機器をうまく使っていくこともこれからは必要になってきますからね。例えば、サビ落としのために研磨材を吹き付ける「サンドブラスト」のような機械も建築塗装の現場でも使うようになっているんです。
サビ落としは手作業でやるところが多いんですが、私はクルマの塗装もやっていますので、以前から使っていましたからね。さすがに一人1台というわけにはいきませんが、どのように使うか実際に触っておけば、後々、役立つと思うんです。現場では日々の仕事に追われて、どうしても、教えてあげたくても、教えきれないことがあります。また、自分の親方以外の職人の技術を間近で見ておくことはいい経験になると思います。
ほとんどの生徒たちは、塗装店から派遣されています。そして、週に1回、仕事を休んで、わざわざ学校に通っている。自分としてはとにかく、しっかりと教えていって、生徒たちに技能をきっちり覚えてもらって、職場に帰ってもらいたいと思っています。
掲載日:2018/10/31
教えることで仕事の本質が見えてくることもある