Natui Takayuki (age53)
1972年8月4日東京都は座間市+海老名市で生まれ育った。軽天職人歴33年。この春、軽天職人夏井貴之とカモ井加工紙がコラボして世界初の軽天作業専用のテープ製品を開発した。経験の浅い若手でも素早く精度を出せる画期的な製品で世界でも類がない。通常粘着テープを使わない軽天の現場からなぜ新型テープ製品が生まれたのか。開発者本人が語る。株式会社ケンオー/東京都
INTERVIEW
1972年8月4日東京都は座間市+海老名市で生まれ育った。軽天職人歴33年。この春、軽天職人夏井貴之とカモ井加工紙がコラボして世界初の軽天作業専用のテープ製品を開発した。経験の浅い若手でも素早く精度を出せる画期的な製品で世界でも類がない。通常粘着テープを使わない軽天の現場からなぜ新型テープ製品が生まれたのか。開発者本人が語る。株式会社ケンオー/東京都
Chapter 1
2025年春、世界初となる一つの画期的な新製品が店頭に並んだ。きっかけは、ベテラン軽天職人.夏井貴之がある夜見た夢。現場でテープを使うことのない軽天の職人が、効率と精度を格段に向上させる夢のようなテープを夢の中で見てしまった。ハッと夜中に目覚めた職人はとっさに枕元の携帯電話を手に取り夢で見たものを打ち込んだ──。
職人になってからずっと、30年以上軽天の仕事をしています。オフィスや会社などの天井の骨格を〈Cちゃん〉という骨組みで作ります。われわれの仕事には養生という作業がなく、だから普段の現場では、カモ井さん始め、どこの会社のテープも使うことはありません。
だから不思議なんです、なぜテープの夢を見たのか。夢の中でピッチを測るテープが出てきて、それをCちゃんに当てるとピタッ!ピタッ!と効率良く、速く、正確に長さが決まる。ふーん、便利なものだな、思いながら使っていると──
『お前...なんでテープを使わないんだよ、なんでテープを使わないんだよ』
夢の中ではっきりと声が聞こえた。聞いたことのない男性の声でした。ハッ。驚いて目を覚ますと、鮮明な声が耳の奥に残っていて、見た記憶も驚くほど新鮮だ。指先に感覚すら残っている。ぼくは夢の中で見た〈軽天用の不思議な測量テープ〉をその場で忘れないうちに携帯のメモ機能に記録したのです。
Chapter 2
まずは、自分で試作品を作ることにしました。夢の中では効率と精度が上がって便利でしたが、実際にはどうだろうか。自分の会社ケンオーの社員にアイデアを説明して、「作ってみてもいいかな」 聞いてみると、興味を示してくれたのでさっそく始めました。
養生用のテープを購入して、一度引き出し、マジックで寸法を測りながらラインを描いて手作業で巻き戻す。面倒でしたが、夢で見た物が実際はどうなるのか、そのことに興味がありました。実際に使ってみると、ふむふむ、なるほど。繰り返していくうちに段々と、夢で見た幻の製品が、現実味を帯びたカタチになっていくのが面白い。そして次第に「これはモノになるぞ」確信を感じるようになりました。
僕ら軽天職人は普段、金属製のメジャーでピッチを計測します。ベテランともなればかなりの速さと正確さで仕事を進めますが、人手が不足する今、新人から外国人研修生まで、大勢の人達に同じ精度とスピードを求めるのは難しい。本人は丁寧に取り組んでいるつもりでも、メジャーを当てる角度や位置や、ほんの少しの微妙なズレが蓄積すると、これ全部ダメじゃん... という事になりかねない。説明すれば彼らはわかってくれる。しかし丁寧さを優先して手が遅くなるのも困りものです。そのすべてを解決してくれるのが、夢で見たテープなのです。
試作品を試しに自分で使ってみると、「たしかにこれは便利だな」これさえあれば新人でも仕事の効率が上がりそうだ。確信した僕は、ここで初めて一面識もないメーカー各社さんへ「試作品を見て欲しいんです」と連絡を始めました。
Chapter 3
しかし、ここからが進まない。日本中の現場資材を製造する大手さんを始め、いくつもの会社さんへ連絡を入れて試作品、アイデアと設計を記した仕様書などを送りましたが、製品化へ向けての色良い返事がもらえません。
のちわかることですが、テープに等間隔でピッチを印刷する版を作ることが技術的に難しいこと、予算がかかること。さらに、日本にも世界にも類似品が存在しない新製品であり、売り上げの予測が全く立たない──などの理由もあったようです。
そんなとき「もう一度試作品を前に話を聞かせてくれませんか」と連絡を返してくれたのがカモ井さんだったのです。
そこからはトントン拍子に... と言いたいところですが、やはり販売する製品を作るというのは大変なことですね。軽天の現場が求める糊の粘着度の最適解は何なのか。ベテランさんたちに何度も試作品を使ってもらい、製品性を高めました。外国から来た実習生でも一目で分かるよう言葉ではなく、誰しもが分かるシンプルなデザインにしよう。箱の仕用書きは僕自身が書きました。
〈ピッチライン〉というネーミングは「わかりやすくシンプルに」と僕が考えました。箱に印刷された説明も自分で書いてますよ。夢で見たあの夜から1年と少し経ちました。「軽天の現場ではピッチラインで割り付けるのが当たり前というようになってもらいたいな」と思っています。
夏井さんの発明が現場で羽ばたき始めた。
掲載日:2025年3月28日
軽天職人夏井貴之が見た夢。夢がきっかけで世界初の新製品が誕生するまで。