Kouetsu Abe (age51)
1975年1月14日生まれ。19歳で東京に渡り塗装職人の道へ。練馬を拠点に現場経験を重ね、帰郷後は石巻で父の仕事に携わる。震災では津波に浸かり町の喪失を経験。以後、実地テストと根拠ある塗料選定、耐久性を重視した施工を信条に、暮らしを支える塗装に向き合っている。
INTERVIEW

1975年1月14日生まれ。19歳で東京に渡り塗装職人の道へ。練馬を拠点に現場経験を重ね、帰郷後は石巻で父の仕事に携わる。震災では津波に浸かり町の喪失を経験。以後、実地テストと根拠ある塗料選定、耐久性を重視した施工を信条に、暮らしを支える塗装に向き合っている。
Chapter 1
塗装を始めたのは19歳の頃です。 父が昔から塗装業を営んでいましたが、 手伝ったこともなく、父の後を継ぐ気もありませんでした。高校卒業後は仙台の運送会社に就職しましたが、半年ほどで退職。 そのとき、同級生の親戚が東京で塗装職人を探していると聞き、「すぐに働きたい」と伝えたことが、職人としての始まりでした。 親方にアパートを借りていただき、練馬区で一人暮らし。 新人ペンキ屋として、東京での生活が幕を開けました。 石巻で育ち石巻しか知らないぼくにとって、 東京は全くの別世界でした。とにかく人が多くて賑やかで、戸惑いました。どこへいっても毎日がお祭り騒ぎです。
東京で暮らしたかった理由は、じつは古着屋が目的です。ぼくは古着が好きだったんですね。古着屋の店員になりたい... じつは、そんな夢もありました。当時の東京には、こちらにはない珍しいヴィンテージ品を扱う専門店があったんです。 新宿から走る中央線の駅に若者の町.高円寺があります。そこに足を運んで、古着を探すのが楽しみでした。 ヴィンテージのシャツやデニムを蒐集したり、 オールドミュージックのCDを聴いたりして、青春を謳歌しました。東京でさまざまな現場経験を積みました。やっていくうちに塗装の面白さを知り、だんだんのめり込んで本気になっていきました。そういう自分に気がつきもしました。 そうして4年を過ごしたあと、父の体調も気になり、石巻へ戻ることにしたのです。戻ってからは父の現場に入りました。
Chapter 2
父と一緒の仕事は、うーん、同じ塗装とはいえ父とは塗装のジャンルが違うこともあって、最初は合わないところもありました。 父の仕事の中心は、和室を塗ることだったんですね。東京だと部屋の柱を塗らないじゃないですか。こちらは木の雰囲気を活かして室内の柱を塗ります。今ではだいぶ減ってきましたけれど、石巻の塗装文化だと思います。 大切にしていることは、塗料や塗装の根拠をしっかり持つことです。 自分で現場調査・お見積りをさせていただくようになってからは、塗料の耐候性のテストやマスキングテープの糊残りのテストなどを行い、少しでも綺麗に長く持つことを考え作業しています。
ぼくは本当にお客様に恵まれていて、「着工まで時間がかかってもいいから、お願いします」と言っていただけることが多く、心から感謝しています。 また、塗料販売店・塗料メーカー・親しくさせていただいている同業者にも恵まれており、 塗料の選択や素材の種類・トラブル解決など、 お互いにリスペクトし合いながら成長できる環境にも感謝しています。
Chapter 3
東日本大震災は大きな経験でした。 石巻の風景が、ある日突然すべて無くなってしまった。自身の瞬間は現場に出ていて、津波で押し寄せた水に浸かりながら家まで歩いて帰りました。 あの経験は、ぼくのいままでの「価値観を塗り直す」ことを与えてくれました。震災後の復興工事では、新築の家を塗る機会が多かった。周りの全てが全部新しくなる風景の中では「人々の生活を支える塗装」を目指しました。 自分の町が一度壊れてしまったショックは大きかったですが、それがぼくに仕事の大切さを教えてくれた。 縁のある人たちの家が、以前塗った家がなくなってしまった時は、言葉にできない悲しみがありました。でも、だからこそ、 一つ一つの現場で根拠を持って素材を選び、耐久性を高めるようにしています。 ブログやyoutubeチャンネル(阿部塗装店/@abetosouten )をやっています。 同業の尊敬する人に影響されて始めたんですが、 仕事の裏側や人生の話を綴っています。 文章は得意じゃないんですが、やってみると自分を表現する手段になりました。
塗装の仕事は表現する仕事です、意外とお客様が見てくれて人柄を知ってもらえる、これも大切だと気付きました。塗装はお客さんの毎日の生活を彩るものだと思っています。 心を込めた仕事で信頼を築いていきたいです。 東京時代に集めたヴィンテージの服は、だいぶ処分してしまいましたが今も大事にしています。 着ることもありますが、いわゆるコレクションですね。レコードやCDも好きで、いまも部屋の片隅で眠っていますよ。 仕事がメインの毎日ですが、日本塗装技術研究会に所属してからは他県の同業者とお話しする機会が増え、これまで以上に「塗料・塗装の深さ」を楽しんでいます。とはいえ、仕事だけがすべてではありません。近年は家庭の時間も大切にしていきます プライベートでは古着や塗料・塗装好きのぼくがいます。全国の職人さんたちに、ぼくのような人間もいるんだと思ってもらえたら嬉しいです。
掲載日:2026年2月16日
東日本大震災の日、押し流された町を水に浸りながら家へ戻った。