Kamibayashi Takeshi (age58)
有限会社上林塗装代表取締役。1962年2月8日、埼玉県生まれ。高校卒業後、東京の塗装店に就職、塗装職人の道を歩み始める。1年後、故郷・秩父に戻り、父・登氏の上林塗装に入る。上林塗装は1987年に有限会社上林塗装として法人化。2009年に代表取締役に就任
INTERVIEW
有限会社上林塗装代表取締役。1962年2月8日、埼玉県生まれ。高校卒業後、東京の塗装店に就職、塗装職人の道を歩み始める。1年後、故郷・秩父に戻り、父・登氏の上林塗装に入る。上林塗装は1987年に有限会社上林塗装として法人化。2009年に代表取締役に就任
Chapter 1
上林塗装は2016年に亡くなった親父、登が70年前に独立、創業しました。以来、この秩父で地元密着で仕事を続けていますが、創業当時はクルマなんて手が出ないので、自転車の両ハンドルにペンキ缶をかけて、道具袋をかついで現場に通ったそうです。秩父は盆地ですけれど、坂道はいたるところにあって、親父はたいへんだったんだろうなと、いまも思いにふけることがあります。
親父や私の駆け出し時代は、刷毛だけで塗装していました。それに、刷毛も使いやすいように自作したり、自分で手入れをしたりしていたんです。うちの会社には「タンバ」という道具が残っています。「塗師屋小刀(ぬしやこがたな)」とも呼ばれますが、塗師屋とは漆塗り職人のこと。
もともと、漆塗り職人が刷毛をつくったり、ヘラを削ったりするための小刀なんです。漆塗り職人は古来の塗装職人ですから、その流れでペンキを使う塗装職人は「タンバ」と呼んで、愛用していたんです。自分は塗装技術を親父から学びましたから、「タンバ」の使い方も仕込まれています。いまはめったに使うことはありませんが……。
高校を卒業後、東京の塗装店に入りました。たまたまなんですが、塗魂ペインターズでご一緒している山越塗装、山越達也さんの叔父さんの店だったんですよ。親方は独立前、親父と同じ店で働いていた同期だったので、紹介されたわけです。達也さんのお父さん、山越塗装を創業された山越敏司さんは秩父出身なんですが、縁があるんですよね。
Chapter 2
東京での現場は、新宿やら、田園調布やら……田舎から出てきたばかりの18歳でしたから、見るもの見るものが目新しく、楽しかった。ときには、現場帰りに作業着のまま、怖いものなしで歌舞伎町を歩いていました(笑)。
1969年10月に西武秩父線が開通して、池袋駅から直通運転も始まり、その頃、この街は住宅などの建設ラッシュだったんです。塗装の仕事は大忙しでした。また、いまのように新建材がなかったから、塗装しなければいけないところが多かったんです。また、古くからの木造建築の木材の黒ずみや汚れを洗い落とす「灰汁洗い」という仕事も多かった。すごく忙しかったんですが、いろいろな仕事ができましたから、職人として勉強になりました。
ずいぶん、時代は変わりました。塗装でもその頃、ローラーが登場してきたんですが、「何じゃ、これ?」と思いましたからね(笑)。
親父や自分たちは「刷毛を使いこなせてこそ、一人前の塗装職人」という世代でしたから……塗料にしても、隔世の感があります。
でも、新しいモノ、時代の流れに対応していかないと、世のなかに乗り遅れていってしまいます。自営で塗装業をやっていると、常に将来に不安を感じてしまうんです。いまは仕事があるけれど、明日はわからない。先に先に進んでいくつもりでないと、世のなかの流れに追いついていけません。たとえば、ドローンや赤外線サーモグラフィーカメラ。屋根塗装や外壁塗装、雨漏りに効果を発揮しますから、導入しない手はない。いちはやく導入すれば、他の塗装店と差別化していくこともできますからね。
Chapter 3
いまの時代、何が起こるかわかりません。1年前、まさかコロナ渦が起こるとは思ってもみなかったんですからね。いざ何かが起きたときのために何ができるかを、先に先に進んで、考えておくという。
上林塗装でいちはやく取り入れている光触媒塗料には、保温性、空気浄化、安全性、耐汚染性、脱臭効果、防カビなどの効果などがあります。また、光触媒塗料にはさまざまな種類があるんですが、アパタイト光触媒塗料には、細菌やウイルスを吸着、分解する抗菌効果が認められています。
それで、塗料メーカーさんとも相談して、自分たちで実験してみたりもしているんです。
たとえば──アパタイト光触媒塗料を塗って、細菌を付着させて、「ルミテスター」という計測機器で細菌が残っているか試してみたら、明らかに減っていた。この機器ではウイルスの計測はできないのですが、効果は期待できると思います──お客様におすすめするのには、自分たちが納得しなければ、半分、騙しているようなものですからね。自分たちはそういうことはやりたくない。やみくもに先に先に進もうとしても、無理が生じてきますからね。
Chapter 4
上林塗装では、塗装にかける思い、こだわりを「塗志(ぬりし)」という言葉にしています。先述したように、漆塗り職人は「塗師屋」「塗師(ぬし)」は呼ばれますが、「塗師」には職人としての誇りが感じられます。伝統的な職人としての技、腕だけでなく、職人としての魂を受け継いでいこうというを志も感じられます。現代の塗装職人も「塗師」だと思うんですが、志をより強く持った「塗志」を目指していこうということです。自分の名前「猛志」という自分の名前にも「志」があるので、ちょうどいいと思いましたけど(笑)。
幸い、長男の勇介も、次男の奎介も自分の跡を継いで、塗装職人の道を歩んでいます。自分では「塗志」を受け継いでくれていると、勝手に思っているんですが、勇介にも、奎介にも、「跡を継いでほしい」とか「塗装職人にならないか?」とか、一度も言葉で伝えたことはないんです。継いでもらいたいと願う一方、自分なりの道を歩んでほしいという気持ちもありましたからね。
自分も親父から言われたことはなかったんですが、もし言われていたとしたら、反発していたかもしれないという気持ちもあったんですけど(笑)。
彼らは自分で考えて、自分で決めてくれました。親父から受け取ったバトンを息子たちに渡すことができて、本当に嬉しかった。親父も勇介、奎介が塗装職人になりたいと言っていると聞いて、満面の笑顔を見せていました。今年1月に初孫、勇介の長男が生まれたんですが、将来、親父のような笑顔ができることを夢見ています。
掲載日:2020/9/17
塗装職人の思い、こだわり、プライド「塗志」の道を歩み続けていくつもりです