Kamibayashi Keisuke (age28)
上林奎介 1992年4月8日生まれ。埼玉県秩父市で父が経営する「上林塗装」で研鑽を重ねて職人歴8年。養生から塗装、そしてお客様との会話まで。“塗志”としてのプライドを内に秘めながら、一つ一つの仕事を大切にするのがモットー。専門学校でインテリアデザインを学んだソフトな語り口調が、これからの塗装業界を担う若手らしい雰囲気を生み出している。多数の資格を有しているが、さらなる向上を目指している。
INTERVIEW
上林奎介 1992年4月8日生まれ。埼玉県秩父市で父が経営する「上林塗装」で研鑽を重ねて職人歴8年。養生から塗装、そしてお客様との会話まで。“塗志”としてのプライドを内に秘めながら、一つ一つの仕事を大切にするのがモットー。専門学校でインテリアデザインを学んだソフトな語り口調が、これからの塗装業界を担う若手らしい雰囲気を生み出している。多数の資格を有しているが、さらなる向上を目指している。
Chapter 1
塗装の道へ入ろうと決めたのが何歳だったのか。きっかけは何だったのか。具体的には覚えていないんです。特別な動機や理由があったわけではありません。父に誘われてもいません。自然な流れで自分は塗装の現場に立ち、今、こうして塗りの仕事をしています。
小さかった頃の記憶をたどると――お母さんがハンドルを握る軽トラに乗って一緒に現場に材料を届けに行って、そこでお父さんが汗をかいて働いるシーンなどを鮮明に覚えているんです。屋上で、空が青くて、風が流れていました。その時、僕はたぶん3歳とか4歳だと思う。その記憶が人生の最初の記憶=原体験です。
覚えてはいないのですが、小学校1年生くらいに書いた作文を見ると、「とそうのしごとをして、いろいろな人と出会いたい」と書いているんですよね。だからその頃には、現場でいろいろな人と出会う楽しさを、知っていたのかもしれません。
僕が暮らしている秩父という町は、歴史の古い自然が美しい場所です。この土地の風景と記憶の断片が、自然と僕を塗装職人の道へ導いてくれたんだろうなと、今は秩父という土地にとても感謝しています。
Chapter 2
専門学校ではインテリアデザインを勉強しました。卒業後は就職や進学する同級生が多い中、自分が即座に「塗装の修行に入ろう」と決めたのは、高齢の祖父が“塗志(ぬりし)”として、現場で働いていたからでした。当時70歳を超えていた祖父は、父の師匠であり、いぶし銀の職人であり、塗装の歴史を肌で知っている古き良き“レジェンド職人”の一人です。
昭和世代の祖父に、養生から始まって塗装の技術まで。職人に必要な心構えや根性などを直接学ぶ機会は、このタイミングしかない! それに気がついて、卒業と同時に現場へ飛び込みました。
職人を目指した者なら皆が感じることと思いますが、とにかくこの仕事は“見る/やる”で大違いです。
養生テープの引き方一つ、刷毛の微妙な動作一つ、とにかく見ると簡単そうなのに、自分がやると最初の頃は全然できません。
しかし僕は現場で、祖父から怒鳴られたり、小突かれたりしたことはありません。あるいは僕が孫なので優しく丁寧に教えてくれたのかもしれません。でも、祖父が僕に示してくれたような新人への優しく丁寧な先輩職人としての姿勢は、これからの現場で、ますます大切になっていくと思います。
祖父は亡くなって、今はもういません。現場に一緒に働けた期間は短いものでしたが、祖父と一緒に現場に立てた思い出は、僕の一生の宝物です。
Chapter 3
職人になって今年で8年です。塗装の仕事は季節や天候と深く関係しています。8回の夏があって冬があって、梅雨もあるし、台風も毎年やってきます。最初に想像していた塗装職人の仕事と比べて――楽しいなあと思う部分もある反面、大変だなあと思う部分もあります。
塗装は天候に左右される仕事です。地元秩父は、周囲を山に囲まれている盆地で夏は暑くて、冬は寒い。雪が多いわけではないですが、それでも天候の不順で予定が遅れて、焦ってしまうこともあります。今の充実度を数字で言うと80%です。天候の不順に対応できる、気持ちの余裕を持った職人になりたいなと思います。
今の僕は、一つの現場を4歳ちがいの兄とで受け持つことが多いです。地元秩父での仕事が多いので、戸建てがほとんどです。やっぱりこの仕事は、施主さんに「ありがとう」と声をかけてもらった時が一番うれしいですね。
“有限会社上林塗装”は父をチームリーダーに、全員が“塗志”であることに胸を張っている会社です。
そろいのユニフォームや会社のマークのデザインなど、新しいことは父が発案して、皆で「よしこれでいこう!」と決めていきます。塗装には発想力も大切なんですよね。
うちの会社はドローンも飛ばしますよ。ドローンでの建物診断はまだ秩父では珍しくて、いろいろな人が見に来ます。中学や高校時代の同級生たちと現場で会い、元気そうだね!なんて同窓会みたいな挨拶ができるのは、地元密着で仕事ができる塗装ならではの楽しさかな。
現場で兄と意見が食い違うこともありますよ。そういう時は、年長者を尊重して意見を譲ります。自分のやり方を主張することと同じくらい、仲間としての気持ちを共有することも、塗装の現場では大切だと感じています。
アイデアと発想力のある父、仲が良い兄弟、信頼できる仲間と仕事ができることを、幸せだと感じています。
掲載日:2020/10/6
秩父の美しい自然と青空の下で、父がペンキを塗っている風景が一番古い記憶です。ようやく僕も職人歴8年――。まだまだこれから。